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税理士コラム

税よもやま話 第2回 睡眠預金の話2012年12月16日

今回も前回に引き続き銀行業についてのお話をいたします。

皆さんよくご存知のように、銀行業には大きく分けて都市銀行、地方銀行、そして信用金庫などがあり、それぞれに個性的な社風を誇っています。銀行業界は他人資本に大きく頼る業務内容から、コーポレートガバナンス、コンプライアンス、アカウンタビリテイに敏感で、金融庁を畏怖する一方、国税庁を少し軽んじているところがあります(表面的には紳士然あるいは淑女然として対応していただけますが)。

睡眠預金(休眠預金)について

今年2月ごろから新聞報道等で何度か睡眠預金の記事が取り上げられています。最近も、「睡眠預金十四年度から活用 まず500億円規模想定」との報道がなされていました。

睡眠預金とは預金者に忘れられた預金であり、銀行側から見ますと預金者の所在がつかめない預金ということになります。我々の誰もが一つか二つは持っているかもしれません。

睡眠預金は元金とその受取利息の蓄積で構成されています。金融庁の調査によると1年間に850億円が認定されるとのことですが、毎年、一つの信用金庫で約1億円、地方銀行で数億円、都市銀行ですと十数億円の睡眠預金が発生しています。

睡眠預金の取り扱い

これだけの残高がある睡眠預金を国税が見逃すわけがありませんが、収益課税に至るまでには長い時間がかかりました。かつて課税を免れていた無記名預金、仮名預金、借名預金も含まれており、預金者の特定もできず、10年以上動きのない預金は銀行の収益に計上すべきだと主張する国税側と、お客様からの大事な預かり金であり、銀行の収益に計上する筋合いはないとする銀行側との論争が長く続いたものと想像されます。

業を煮やした当時の大蔵省は、昭和63年銀行局長通達「特別定期預金及び特別金銭信託の整理について」を出し、満期日以降遅くとも10年を経過した日の属する決算期までに利益金として計上することが望ましいとしました。

平成3年に全国銀行協会も、全銀協通達「睡眠預金に係る預金者に対する通知及び利益金処理等の取扱の改正について」を出し、真正名義人の確認、利益金処理、利益金処理後の取扱を定め、同年全国銀行協会連合会から各地銀行協会に伝達がなされました。これ以降、銀行では取引がなくなって10年経過し、通知を出しても届かない残高1万円以上の口座と、10年経過した残高1万円未満の口座を睡眠預金として収益に計上することとなりました。

現在、睡眠預金は銀行の利益としてその他経常利益に計上されていますが、利益計上しても預金に対する権利は預金者にあるとして、真正預金者に対しては払い戻しが行われています。銀行では年に一回、睡眠預金のリストを作成し、本店営業部、各支店はこのリストに基づいて預金者の届出住所に通知書を送付します。通知書が届いたものについては正常と判定し、通知書が支店に戻ってきたものに対して電話での接触あるいは臨戸(直接訪問)により睡眠預金の解明を行い、最終結果を本店財務部に報告します。財務部はこの報告に基づき、当該睡眠預金を銀行の収益として会計処理します。

睡眠預金と税務調査

国税による銀行業の調査において、睡眠預金の調査は重要項目の一つとされています。銀行の支店長によっては睡眠預金の見直しにあまり熱心でない方もいます。銀行にとってはあまりメリットのある作業とは言えないからでしょう。

税務調査においては、まず各支店における睡眠預金の判定結果に対する精度検証をすることから始めます。ここで見逃すと、この睡眠預金の次の見直しのチャンスは10年後になってしまいます。返戻されてきた通知書、渉外担当者の接触記録等を調査すると、なんら接触もしていないのに、睡眠預金リストに計上されていないものが出てきます。時には一口数百万円の預金から、まれに数千万円の預金がもれているときがあります。アングラマネーである仮名・無記名預金に対する課税が見落とされることにもなるわけです。

今日もメガバンクの一室では、銀行員と国税Gメンとの間に睡眠預金の課税をめぐる熱き戦いが繰り広げられているはずです。

税理士 松井 孝榮

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