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税理士コラム

成功者になるための法則その3-3~従業員との縁~2019年03月28日

 シリーズ「成功の法則」、前回に引き続き「人間関係」がテーマですが、本会報は主に経営者の方々にお読みいただいていることもあり、今回は「経営者と従業員の関係」に焦点をあててお伝えいたします。
 本稿では私のこれまでの経営者人生の中で培った経験をもととして、採用、人材育成などを軸に、従業員に対する経営者のあるべき姿について記したいと思います。

「運の良い人」を見分ける

まずは、経営者と従業員の関係のはじまりである「採用」についてです。故郷、福島県いわき市に会計事務所を開業して40年になりますが、この間、経営者として多くの採用を行ってきました。
 結果、私は採用に関してひとつの方針を決めました。それは「運の良い人を採用する」ということです。これは裏を返せば「運の悪い人は採用しない」ということでもあります。私は「運の良い人」とは前向きで明るく、なによりも素直な人だと思います。逆に「運の悪い人」はいつも後ろ向きで、愚痴や不満ばかり言っています。
 では、具体的に採用面接の場で「運の良い人」と「運の悪い人」をどうやって見分けるべきなのでしょうか。服装、身だしなみ、話し方、顔つき、学歴、経歴など人を見る要素はたくさんありますが、私は「これまでお世話になった職場に対する発言」に重きを置いています。

目先の利益に捕らわれると判断を間違う

 しかし、人間は固く心に決めても時に判断を誤るものです。数年前、Mさんという税理士が弊社に応募してきた時のことです。最終面接は私が直接担当しました。M税理士は、まくしたてるように前の職場の文句や愚痴を話始めました。多弁で早口なM税理士の話は徐々に熱を帯びていき、私は「不採用だな」と思いました。
 しかし、手元に置かれた履歴書には華々しい経歴が記されています。日本の最高学府である東京大学を卒業し、税務大学校では成績優秀賞に選ばれ、国税調査官として働きながら税理士資格を短期間で取得、税法にも精通し、書籍も出版していました。
 私が履歴書を眺めている間も、M税理士は前の職場について批判を続けていました。これまでの経験から鑑みても、採用してもうまくいかないであろうことは、他ならぬ私自身が一番わかっていました。にもかかわらず、この日、最終的に私は「採用」を告げていました。それはなぜなのか。今、振り返ればよくわかるのですが、一時的に欲に目がくらんでしまったのです。
「これほどの能力があれば、あの仕事をさせて、更なる事業展開が見込めるかも知れない」
「こんなキャリアがあれば、前から手がけたかったあの仕事もできるかも知れない」
 このような目先の利益、実利に目がくらんでしまったのです。その結果は、火を見るよりも明らかでした。

類は友を呼ぶ

 M税理士はなまじ能力が高いため自分がいつも正しいと思い込んでおり、ことあるごとに周囲と衝突しました。しかしながら、本人はその原因が自分にあるとは露ほども疑っていません。次第に弊社に対する不満、愚痴が繰り広げられ、退職に至るのは時間の問題でした。
 そして、退職後もM税理士は自身のブログやホームページを通じて、弊社に対する罵詈雑言を書き散らしています。不満や愚痴の対象がひとつ増えただけで、要するにM税理士はどこに行ってもずっと同じことを繰り返しているのです。それを見ながら私は、「これじゃいつまでたっても成功できないよ」と思いました。
 ご本人は気づいていないでしょうが、M税理士は自ら率先して「運の悪い人」になっているのです。どうして自らを省みることなく、文句や愚痴ばかり言っている人にお客様がつくのでしょうか。どうして感謝の気持ちを持たずして、応援してくれる人が集まるものでしょうか。
 人生というものは不条理なものですから、「思っていた職場と違った」ということもあるでしょう。時にはひどい上司がいたり、同僚にも恵まれず、文句や愚痴のひとつも言いたくなるという気持ちも、わからないわけではありません。
 しかし、どのような職場であろうと何かしらお世話になったことは確かなのです。一見ひどい状況でも、その人の捉え方次第でプラスにもなるものなのです。「運の良い人」はどんな状況も自分にとってプラスへと変えていく明るい力を持っています。逆に、「運の悪い人」は客観的に見ればとても恵まれた状況でも、不満や愚痴ばかりを繰り返し、日々を停滞させていく暗い力を持っています。
 「類は友を呼ぶ」ということわざがありますが、運の良い人には同じく運の良い人が集まるものです。同様に運の悪い人には運の悪い人が自然と集まります。
 このような考えから私は「運の良い人を採用する」、裏を返せば「運の悪い人は採用しない」という方針を採ったのです。にもかかわらず、M税理士の採用面接の際には、目先の欲に目がくらんでしまいました。あらためて人間とは弱いものだと痛感させられた一件でした。

駄目な従業員でも首を切ってはいけない理由

 次に採用後の人材の育成についてです。面接では随分と印象が良かったものの、実際に採用してみたらまったく使い物にならない。このようなことは、長く経営をしていれば誰しもが経験することだと思います。
 しかしながら、駄目だからといって会社側から首を切ってはいけません。安易に首を切ると、前述したところの「運の悪い人」、もっと言えば、会社の良き運をすべて食べつくしてしまう不幸の権化のような人が代わりにあらわれるだけなのです。
 ではどうすべきなのでしょうか。まず第一に、私は「会社は人を育てることはできない」と考えています。人はひとりでに育つのです。会社としてできることは、人が育つための環境を与えることくらいしかできないのだと思います。であるならば次は、その環境をどう整えるかが要になってきます。
 一口に「人が育つための環境」と言っても仕事の手順書や上司の心構えなど様々な要素がありますが、中でも大切なのは「会社は従業員のレベルに合わせてはいけない」という確固たる方針だと思います。
 会社経営はサークル活動や趣味の世界とは異なり、生き残っていくために成長し続けていく必要があります。したがって、経営者は常に従業員に課す仕事のハードルをあげていかなければなりません。すると、途中でハードルを越えられなくなる従業員が出てきます。そして、そういう方はひとりでに去っていくことになります。
 しかしながら、これは前述したように「駄目だからといって会社側から首を切る」ということとは違います。このハードルをあげていく試練は、経営者にとっても従業員にとっても、市場経済の中で生き残っていくためには避けることのできないものなのです。大切なのは、このハードルをあげる行為の根っこの部分に真摯な思いやりがあることなのです。
 そのような思いがあれば、従業員が去って行ったとしても、首を切った場合とは異なり、次に採用する人に「運の良い人」が来るものなのです。私は、去って行った人に対して真摯に向かい合った恩を、新しい人が代わりに背負って来てくれるものなのだと感じています。

従業員に経営者と同じ能力を期待してはいけない

 人材の育成に関してはもうひとつ大切なことがあります。それは、従業員に過度に期待しすぎないことです。当たり前のことですが、経営者という存在はその組織の中でトップに位置しています。それはつまり組織の中で器も能力も一番高いということになります。時には経営者よりも能力があり、器も大きい人間が入社してくることもあります。しかしながら、それは一時的な現象であり、早々に経営者の能力や器に見切りをつけ、パッと辞めていってしまうものなのです。
 このようなケースを除き、普段働いている従業員の能力や器は経営者よりも低いものなのです。能力も器も、従業員は経営者の3分の1程度というのが私の実感です。人を使うのが下手な経営者はこの大前提をわかっていないのです。だからこそ、従業員の仕事に対して自分と同じレベルを求めてしまうのです。そして、出来の悪さにフラストレーションをためて厳しくあたり、従業員の退職が相次ぐなどの悪循環に陥るわけです。
 そもそも従業員に経営者と同じ能力を期待すること自体が間違いなのです。もし、それができるのであれば、その従業員はその会社にいないはずです。
 見方を変えれば、従業員が3人集まって、やっと経営者の仕事ぶりに追いつく程度なのです。そういった前提に立てば、従業員の仕事ぶりに対していちいちストレスを感じることもなくなり、広い心で思いやることも可能になってくるのです。これこそが私は人を使う要諦だと考えています。

「縁」の切れない円満な別れを

 採用、人材育成などを軸に、従業員に対する経営者のあるべき姿について私の思うところを縷々綴ってきましたが、最後に「別れ」、つまり従業員の退職についてお伝えし、本稿を閉じたいと思います。
 「出会いは別れの始まり」という言葉があるように、人と人は出会ったらいつか必ず別れていくものです。私もこれまで40年間、経営者として多くの出会いと別れを経験してきましたが、「終わり良ければすべてよし」という言葉があるように、いかにして上手な別れの時を迎えるかが大切なのだと痛感しています。
 たとえば、あまり関係が良くなかった従業員がいたとします。しかし、別れの際に意外な一面を知り、互いの誤解がとけ、別れを機に関係が改善していくということもあります。
 逆もしかりです。これまでは蜜月の関係だったにも関わらず、別れ方を間違えるとそれまでの蓄積があっけなく雲散霧消することもあるでしょう。それだけならまだしも、目も当てられないくらい関係がこじれることすら起こり得るのです。このように考えますと、別れ際というものは人間の本性があぶり出されるものなのかも知れません。
 本連載で繰り返しお伝えしておりますが、事業経営のみならず人生の成功はすべて「縁」に尽きるのです。縁を大切にしていると、やがてそれは、円、お金にもつながっていくのです。縁をおろそかにしなければ、困ったときに、誰かが助けてくれたり、手を差し伸べてくれたりするものなのです。そして、円が大きく膨らんでいき、輪となり、最終的には和(幸福)につながるのです。
 40年も経営をしていますと、本当に様々なタイプの人間に接してきましたから、そのすべてが良い別れだったとは言えません。裏切りもあれば、ひどいことを言われたこともありました。しかし、私はなにがあってもそういったことで声を荒げたりしたことはありません。常に、「ご苦労様でした。近くに来たら顔を出してくださいね」と言うように心がけています。喧嘩して別れてしまえば、その縁は切れてしまいます。しかし、きれいに別れることができれば、別れは生じても、縁が切れることはないのです。
 だからこそ、別れ際を大切にすれば、人生をより良いものにしていけるのではないかと感じています。

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従業員が辞めていく際にはいつも花を贈ります

 創立者 野本 明伯

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