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税理士コラム

オーナー会社に潜む相続税リスク2013年06月01日

急にお父様を亡くされたというS様から、すぐに相続税申告について相談がしたい、と電話が入りました。早速にご来社いただき、遺産総額とその内訳、相続人の情報、遺産の分割について等、今回の相続に関する概要をお聞きしました。

遺産のほとんどが土地・建物で、しかも都心の一等地、現預金、生命保険金等のその他財産を含めると約8億円の相続財産になり、相続人はお母様とS様ご兄弟の3人様。ある程度の相続税は、覚悟しなければなりません。

S様とご家族のたってのご希望は、お父様が先祖代々守ってきた土地・建物だけは、何とか手放さずに相続したい、とのことなのですが……。

今となってはもう手遅れだ

話をさらに聞き進めて行くと、お父様は亡くなられた時点で、オーナー会社の社長であり、創業して40年以上になるというのです。私は、S様がご持参された会社の決算書を見て、愕然としました(心の中で、相続が発生した今となってはもう手遅れだ、と思いました)。会社の貸借対照表に、お父様からの社長借入金が約2億円残っていたのです。

実は、相続税を計算するうえで、この「社長借入金」は相続財産に加算されることになるのです。つまり、S様のご家族が相続する財産は、土地・建物やその他財産の8億円に、決算書上の社長借入金の2億円を加えた、計10億円ということになります。相続税率が50%ですから、5億円の納税資金が必要になります。【図1】を、ご覧ください。

【図1】S様のお父様の会社の貸借対照表と相続税の計算
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潜在的な税務リスク

ここでの問題点は、「社長借入金」という相続財産は、残された相続人が将来にわたり会社に対して請求できる権利(いわゆる、債権)であって、今現在は、相続税の納税資金にはならない、換金性がない財産ということです。つまり、土地・建物やその他財産は、相続税の納税資金に充てることができるのですが、社長借入金2億円の50%相当の1億円については、新たに納税資金の工面が必要になるということなのです。

私どものような税務会計のプロであれば、社長借入金が未返済のまま放置された状態だと、将来、オーナー社長に相続が発生した場合、相続財産に加算され相続税が課税されることは、容易に分かる税務リスクの一つです。

しかし、一般の納税者の方々にとっては、会社を守るため社長自身が自社に貸し付けたお金に相続税が課税されるとは、夢にも思わないのではないでしょうか。案の定、S様においても、初めて聞く話で、驚きの表情を隠せない様子でした。

複眼的な税務会計サービス

S様の決算書を見た瞬間、思いました。相続が発生した今となっては、もう遅い、相続税を納めていただくしかない。せめて相続が発生する前にS様にお会いできていれば、何かしらのアドバイスができたのに、余分な税金を払わなくて済んだのに、と。

今回のケースのように、ほとんどの納税者が気づいていない、いわゆる潜在的な税務リスクがあります。そして、気づいた時には既に手遅れとなり、予想外の納税を強いられることになるのです。

では、このような潜在的な税務リスクを防止する特効薬は、あるのでしょうか? そのためには、健康診断や人間ドックのように、定期的かつ継続的に、病気をチェックするのが一番の治療法となります。早期発見、早期治療することで、潜在的な税務リスクは容易に摘み取ることができるのです。

会社の税金はもちろんのこと、オーナー会社の社長様個人の税金(今回の相談のような相続税、あるいは所得税のリスク)も視野に入れた、複眼的な税務会計サービスの必要性を、今回の件で再認識した次第です。

税理士 佐藤 修一

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