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税理士コラム

横領等の不正行為による損害賠償請求権(第一回)2016年03月16日

平成28年2月8日付新聞朝刊に「福山通運の元執行役員が取締役を務めていた子会社で下請け業者に運送費を水増し請求させる手口で6億円着服!広島国税局の税務調査で発覚」の報道がありました。
横領等の不正行為による損害賠償請求権の収益計上について、原審では権利が法律上発生していても、その行使が事実上可能となった時とされたが、控訴審では損失が発生した時にはその権利も確定していることから、同時に損金と益金に計上するのが原則であり、その権利(債権)は全額回収不能であると客観的に明らかではないとした判例があります。
その判例を基に損害賠償請求権の収益計上時期、貸倒損失の判定時期及び重加算税の適法性について2回に分けて考えたいと思います。

1 損害賠償請求権の収益計上時期

(1)事案の概要

株式会社Xはビル清掃業務等を営む法人ですが、同社の経理部長甲が経理課長として採用された年度から長期にわたり、架空外注費の計上に係る会計処理を行い、自己の管理する口座に外注費を振り込ませる手口により金員を詐取していたことが税務調査により発覚しました。
Y税務署長は、税務調査で判明した外注費の架空計上等を理由として、株式会社Xに法人税の更正処分(次表)及び重加算税の賦課決定処分をしました。

(2)当事者の主張(原審)

(3)判決要旨(控訴審)

不法行為による損害賠償請求権については、通常、損失が発生した時には損害賠償金も発生、確定しているから、これらを同時に損金と益金に計上するのが原則であると考えられる。もっとも、本件のような不法行為による損害賠償請求権については、例えば、加害者を知ることが困難であるとか、権利内容を把握することが困難なため、直ちには権利行使を期待することができないような場合があり得るところである。このような場合には、権利(損害賠償請求権)が法的には発生しているといえるが、未だ権利実現の可能性を客観的に認識することができるとはいえないといえるから、当該事業年度に損失については計上するが、損害賠償金請求権は益金に計上しない取扱いをすることが許される。(法人税基本通達2―1―43が、「他の者から支払いを受ける損害賠償金の額は、(中略)実際に支払いを受けた日の属する事業年度の益金の額に算入している場合にはこれを認める。」旨規定し、損失の計上時期と益金としての損害賠償請求権の計上時期を切り離す適用を認めているのも、基本的には、第三者による不法行為等に基づく損害賠償請求権については、その行使を期待することが困難な事例が往々にして見られることに着目した趣旨のものである。)

ただし、この判断は、税負担の公平や法的安定性の観点からして客観的にされるべきものであるから、通常人を基準にして、権利(損害賠償請求権)の存在、内容等を把握し得ず、権利行使が期待できないといえるような客観的状況にあったかどうかという観点から判断していくべきであり、不法行為が行われた時点が属する事業年度当時ないし納税申告時に納税者がどういう認識でいたか(納税者の主観)は問題とすべきではないと判示している。

*引用判決

  • 原審(東京地裁H20.2.15判決)
  • 控訴審(東京高裁H21.2.18判決)
    • 元国税調査官・税理士 大柳 和二

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