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税よもやま話 第3回 海運業の話

2013年02月01日

今回は海運業のお話をしたいと思います。

まわりを海に囲まれ、資源が乏しく、生活物資の大半を海外からの輸入に依存している日本にとって、海運業はなくてはならない国家的な重要産業です。

船腹にMOLと記された商船三井の船、煙突中央に白地に2本の赤い線が引かれた日本郵船の船にあこがれ、大型船に乗って世界中を旅してみたいと夢見た方も多いことかと思います。ちなみに、横浜山下公園に係留されている氷川丸は日本郵船所属の貨客船でした。

海運業とは、船舶を用いて旅客または貨物を海上輸送するというサービスを提供することによって収益を得ている企業をいいます。運行領域によって、国内の海上輸送を行う内航海運と日本国内以外の海上輸送を行う外航海運に分類されます。海運業は、船舶を購入または賃借して船腹を確保し、顧客との間に運送請負契約を締結して、ある地点からある地点まで貨物を海上輸送することによって、あるいは船舶の貸し渡しにより収益を獲得します。

海運景気

私が海運業の調査に従事していた数年前は、中国など新興国では景気の拡大が続いており、中国を中心に世界的に荷動きが活発化していました。船腹が足りず、船価も高騰し、船賃はうなぎのぼりに上昇、外航船を運航する一部の船会社は活況を呈していました。

私が調査を担当した某船会社(外航海運)も好景気に息を吹き返し、久しぶりに社員に決算賞与を支給するなど好調を持続していましたが、「船バブル」の終了とともに収益が悪化し、昨年7月に会社更生法の適用を申請しました。調査時にはお互いに白熱した議論を展開しただけに、残念なことです。

サイドビジネス

「船バブル」とは無縁の海運業者もありました。この船会社(内航海運)は離島をつないで生活物資を送り、また、観光シーズンには海水浴客を運ぶなど、島の経済を支える重要な使命を持っています。

一時の離島ブームが去った後も、燃料となる重油の高騰に苦しみながら、創意工夫をモットーに会社経営を続けていました。夏の期間は東京に一時帰航した船を利用し、次の出航までのわずかな時間に、船上で納涼船を開催するのです。客に生ビール・つまみを提供し、夜9時に閉店、出航までの1時間で後片付けを済ませ、出航の準備を整えます。納涼船開催の期間は土日も含めて会社幹部もお客の接待に狩り出され、全社をあげてサイドビジネスを展開していました。

また、船にはバラストタンクという装置があります。水を注入・排出することで船のバランスを保つため、船の前後に取り付けられたものです。荷物を満載しているときには、タンクの水を外に排出します。島に荷物を下ろすと船の喫水線が上がり、不安定になるため、タンクに海水を注入して船のバランスを取ります。船にとっては余分な海水をわざわざ運ぶことになるわけです。

この会社はこれにも目を付けました。おりしも当時、首都圏では水族館の建設がブームになっていました。水族館では新鮮な海水を大量に必要とします。首都圏沿岸の海水は汚染されていて、使い物になりません。水族館からの要望もあり、島からの帰りに船のバラストタンクに新鮮な海水を取り込み、水族館に納入することとなりました。いわゆる海水ビジネスといわれるものの始まりです。

担当者の話では、八丈島からの帰り船を利用して、沖合を流れる黒潮の水質、温度を検査しながら最良の海水を取り込むそうです。この船会社の提供する海水は品質もよく、水族館ばかりではなく、個人や料亭などにも順調に販路を広げてゆきました。

本業と比べれば微々たる収益ですが、会社のこうした努力が実を結んだのでしょう。昨年、念願の新造船の建造計画が発表されました。平成26年には全長118メートルの大型船が太平洋の大海原に向かって乗り出すことになります。

税理士 松井 孝榮