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優良会社であればあるほど

2013年07月01日

2013年6月1日号では、オーナー社長が自社に貸し付けたお金、いわゆる「社長借入金」にも相続税が課税されるという、税務リスクをご紹介しました。

今回は、さらにもう一つ、代表的な落とし穴となる、オーナー社長の出資金である「自社株」に潜む税務リスクにスポットをあてます。

一般的に、社長借入金が未返済のまま放置された状態の会社というのは、なかなか思うように業績があがらず、慢性的に資金不足が生じ、問題解決がなおざりになっているケースといえます。これとは対照的に、自社株の税務リスクは、資金が潤沢で、常に好業績を維持し、成長発展を遂げてきた優良会社であればあるほど、高くなる傾向にあるのです。

自社株に潜む税務リスク

お客様企業から、次のような相談を受けることがあります。「自分で一生懸命に育ててきた会社を子供に継がせるのに、なんでこんなに税金を払わなければならならないのか」、と。これが、社長の椅子を譲るときに問題になりがちな、自社株の承継に関する税務リスクなのです。

下の【図1】をご覧ください。A社のオーナー社長の自社株(資本金)の税務上の評価額は、貸借対照表上の1000万円ではなく、実は、利益剰余金の1.9億円を加味したところの2億円なのです。つまり、自社株の評価額は20倍に膨れあがっていることになります。仮に、贈与により子供に承継するとなると、1億円の贈与税が発生することになります。

本来、業績や財務内容が良好なことは、会社にとっては大変喜ばしいことなのですが、それとは裏腹に、まったく予想外の税負担が発生する、というジレンマに陥ることになるのです。

【図1】A社の貸借対照表と自社株の評価額

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なぜ評価額が高くなるのか

さらに、自社株の承継に伴い多額の税負担が発生しても、普通、オーナー会社の自社株は売却して現金化することが困難なため、納税資金が工面できない、という深刻な問題に直面することになります。

そもそも、なぜ自社株の評価額が、本来の資本金額の10倍、20倍、30倍……と、上昇してしまうのでしょうか。主に、次のような理由が考えられます。
1.業績の良かった時期が長期間続いた場合(会社内に、法人税等を支払った後の利益金が蓄積されると、税務上の評価額が高くなる)。
2.会社の資産に含み益がある場合(かなり以前に取得した会社の土地、有価証券等があり、多額の含み益が発生している場合は、税務上の評価額が高くなる)。

スムーズな事業承継のために

このように、「社長借入金」と「自社株」に潜む税務リスクには、お客様企業が気づかないうちに病状の悪化が進行する、そして、現金化が困難なために納税資金が工面できない、という共通点があります。
私どもは、税務会計のプロフェッショナルとして、常に、次のチェック項目に目を光らせております。
・高収益体質(貸借対照表の利益剰余金が大きい)の会社
・現在の利益はさほどでもないが、会社の設立が古く、過去からの利益の蓄積(=貸借対照表の純資産額)が大きい会社
・オーナー社長が、過半数以上の株式を所有している会社
・過去に購入した帳簿価額の低い不動産を多く抱えている会社

それらが顕在化してから対応するのでは、会社の存続にとって、致命傷になるケースが多々あります。そして、やっかいなことに、特効薬は少なく、治療に長い年月がかかることも事実なのです。

税理士 佐藤 修一