税よもやま話 第8回 粉飾決算
2013年09月01日
税理士 松井 孝榮法人の税務調査を行なっていると粉飾決算にぶつかることがあります。最初から粉飾の事実を告げてくる納税者は皆無であり、調査が進行し、指摘事項の額が増加してくると、実は粉飾決算を行なっていますと告白してくるケースが多いように見受けられます。
告白される前に粉飾決算の匂いがしてくる場合もあります。そんな時は早めに調査を切り上げる。納税者は粉飾の事実を指摘されたくないし、調査官も面倒なことには巻き込まれたくない。お互いのためでもあります。
粉飾決算とは、会社が不正な会計処理を行い、内容虚偽の財務諸表を作成し、収支を偽装して行われる虚偽の決算報告を指します。一般的にいって、赤字決算であることは対外的に信用不安を招き、営業上不利になることが多く、経営者には粉飾決算によって黒字を偽装する動機が生じてくるわけです。具体的には、手持ち資金が不足し、銀行からの融資が得られないと業務が立ち行かない。銀行借入を容易にするために粉飾決算を行なってしまったというケースです。
また、官公庁や公営企業は、発注する建設工事などの工事業者や納入業者に入札参加資格として健全な財務状態を求めているため、一定の財務指標以下の企業は入札そのものが行なえないこととなります。公共工事に頼る建設会社にとって、入札参加資格やそのランクは会社経営に大きな影響を与えるため、粉飾決算を行なってでも入札資格を堅持しようとします。
粉飾決算の手法は意外と単純で、売上を前倒しに計上する、または、売上を架空計上する、仕入債務を過少に計上する、棚卸資産(在庫)を過大に計上する等により、利益を増大させます。しかし、一度でも粉飾を行いますと、翌年に大きく業績が回復でもしない限り、翌年も同じかそれ以上に粉飾を行う必要が出てきます。そのため、雪だるま的に粉飾が膨らむ可能性があります。黒字であれば課税されるため納税資金も必要で、実態が赤字であれば資金繰りに影響することになり、内部では苦しい運用を迫られることになります。
粉飾決算の修正
それでは、過去に粉飾決算を行っていたことにより法人税等を過大納付していた場合、その後の事業年度で修正するにはどうしたらよいのでしょうか。
粉飾決算により過大に計上された資産を消却したり、未計上だった負債をそのまま損金算入してしまうと、税務上は否認されますので、その修正には特に注意が必要です。また、法人税法には企業の粉飾決算を防止するための規定が設けられています。
1.税務上の原則的取扱い
減価償却費、評価損や貸倒引当金繰入額のように損金算入限度額が定められているものなどを除いては、税務上において計上すべき時期に益金または損金に算入することが要求されています。従って、粉飾事業年度後において、その仮装によって生じた売掛金や棚卸資産を消却し、前期損益修正損などの費用に計上しても、税務上においてはその事業年度の損金として認められません。
2.更正の請求による修正
過去に行った過大申告の修正は、更正の請求または更正の嘆願により、所轄税務署長等に減額更正を認めてもらう必要があります。なお、仮装経理に基づくものは、会計上、その修正経理をし、かつ修正経理をした事業年度の確定申告書を提出するまでの間は、税務署長は更正しないことができますので、前期損益修正損などの科目で損益計算書にて適切に処理する必要があります。
3.法人税等の繰越控除
その修正が単なる間違いが原因で、法人税等の還付が生ずる場合には、原則として減額更正後すぐに還付されることになります。しかし、粉飾決算など事実を仮装して経理したものである場合において、税務署長がその法人税につき減額更正をしたときは、その仮装経理に係る法人税額は、次の4.に掲げる場合を除き、直ちには還付されず、更正事業年度以後5年間に発生した法人税額から順次繰越控除することになります。なお、その5年間で控除しきれないときは控除未済額が還付されます。
4.仮装経理で直ちに還付される場合
過大申告をした事業年度終了の日から減額更正の日までに、残余財産の確定、合併による解散、破産手続開始決定による解散、連結納税の承認等、更生手続開始決定、再生手続開始決定及び特別清算開始の決定など、一定の事実が生じているときは、更正後直ちに還付されます。
税理士 松井 孝榮