税よもやま話 第20回 不服申し立て(その一)
2014年12月11日
税理士 松井 孝榮税務調査の結果、悲惨な目にあった実例をある社長さんからお聞きしました。
今から5年程前のこと、国税局の二人の調査官が調査に来社して、売上の除外を指摘しました。身に覚えのないものでしたが、得意先が費用に計上しているとの説明でした。
納得しなければ、すべての取引先に反面調査を実施する。修正申告を出せば社長貸付金として処理するが、出さなければ役員賞与として更正すると脅かされたそうです。
得意先は当時最大の売上先でもあり、顧問税理士とも相談した結果、仕方なく修正申告に応じることにしたとのこと。多額の重加算税を課され、会社の貸借対照表には社長に対する貸付金として1億円が計上されました。
修正申告と更正
国税局や税務署の税務調査の結果、法人税や所得税、相続税等について税額計算の誤りを指摘された場合、納税者は修正申告か更正かを選択することとなります。
納税者が修正申告を選択した場合は、納税者が自ら誤りを認めたうえで自立的に納税額の修正をする行為と認められますので、後で修正申告が間違っていたことが分かった場合でも、不服申し立てをすることはできません。
納税者が修正申告を拒絶した場合は、税務調査の対象である法人税等について、税務署等の課税庁による更正が行なわれます。この場合、処分に不服がある時は、不服申し立てをすることができます。
納税者が納税者の権利、利益の救済手段として、不服申し立てを選択した場合の「不服申し立て制度」について解説してみたいと思います。
行政争訟制度
行政処分の争訟制度としては、訴訟(司法救済)と不服審査(行政救済)の二つの制度があります。
行政争訟制度の目的は、行政権の作用に対する国民の権利利益の救済であり、行政の適法性及び合目的性の保障であるといわれます。
権利利益の救済という見地からいえば、司法権の発動として裁判所が判断を行う行政訴訟は、最も整備された形態ではありますが、手続きが慎重であるだけに迅速な処理は期待できず、手数と費用とを考えれば、司法救済を求めるには必ずしも適当でない事件も多数見受けられます。そこで、行政訴訟の前置的ないしは補完的な権利利益の救済手続きとして、行政機関による略式の争訟制度(不服審査制度)が設けられています。
不服申立ての種類
1. 異議申立て
税務署長等の行った更正や決定、滞納処分などについて不服があるときには、処分の通知を受けた日の翌日から2ヶ月以内にこれらの処分を行った税務署長等に対して不服を申し立てることができます(国税通則法第八十一条)。
異議申立書を作成のうえ、税務署等に持参又は送付により提出します。その際の手数料は不要です。
税務署長等から異議決定を受けた後、なお処分に不服があるときは、異議決定の通知を受けた日の翌日から1ヶ月以内に、国税不服審判所長に「審査請求」をすることができます。また異議申立てについての決定があるまでは、異議申立てを取り下げることができます。
2. 審査請求 国税に関する法律に基づき税務署長等が行った更正や決定などの課税処分、差押えなどの滞納処分等に不服があるときは、原則として、まず、これらの処分を行った税務署長等に対して「異議申立て」を行い、その異議申立てに対する決定(異議決定)があった後の処分に対してなお不服があるときには、国税不服審判所長に対して「審査請求」をすることができます。
この場合の審査請求書の提出期間は、原則として、異議決定書謄本の送達があった日の翌日から起算して1ヶ月以内です。
なお、審査請求を行う場合の審査請求書の提出先は、審査請求の目的となる処分を行った原処分庁の管轄区域を管轄する国税不服審判所支部となります。
【次回へ続く】
税理士 松井 孝榮