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横領等の不正行為による損害賠償請求権(第二回)

2016年04月16日

前回において、従業員等の横領等不正行為による損害賠償請求権については、通常、損失が発生した時には損害賠償請求権も発生、確定していることから、これらを同時に損金と益金の額に計上するのが原則であることを説明しました。
しかし、法人は多額の経済的な損失を被った被害者であり、また、損害賠償請求権の行使により損害額が本当に回収できているかというと、現実はその多くが回収不能となっているのが実態であります。今回は、損害賠償請求権の貸倒損失の計上及び重加算税賦課の適法性を考えたいと思います。

2 損害賠償請求権の貸倒損失

控訴審において、「権利確定の時期は、法的基準によって判断していくもので、債務者の資力、資産状況等といった経済的観点により債務の履行可能性を判断し、それが乏しい場合には益金計上しなくてよいとする処理は妥当でないというべきで、このような経済的観点からの実現(履行)可能性の問題は、貸倒損失の問題として捉えていくのが相当である。そして、損害賠償請求権がその取得当初から全額回収不能であることが客観的に明らかであれば、貸倒損失として損金に算入することが許されるというべきである。
また、取得当初はそういえなかったとしても、その後そうなったという場合は、その時点の属する事業年度の損金に算入することが許されるというべきである。もっとも、貸倒損失として損金に算入するためには全額回収不能であることが客観的に明らかであることが必要であり、また、全額回収不能であることが客観的に明らかであるといえるかどうかは、債務者の資産・負債の状況、支払能力、信用の状況、当該債券の額、債権者の採用した取立手段・方法、取立てに対する債務者の態度・対応等諸般の事情を総合して判断していくべきものである」と判断している。

3 重加算税賦課の適法性

実務上、重加算税を課すためには、納税者において、過少申告を行うことの認識を有していることまで必要とするものではなく、隠ぺい又は仮装行為は法人の代表者に限定されるものではないとしている。したがって、従業員等を自己の手足として経済活動を行っている法人においては、隠ぺい又は仮装行為が代表者の知らない間に従業員等によって行われた場合であっても、その従業員等の行為を法人の行為と同一視することが相当である場合には、法人自身が当該行為を行ったものとして重加算税を賦課している。
控訴審においても、「当該役員は経理業務の責任者で実務上の処理を任されていた者であり、法人としても容易に役員の隠ぺい、仮装行為を認識することができ、認識すればこれを防止もしくは是正することが十分可能であったのであるから、法人の行為と同視するのが相当である」とし、当該賦課処分を適法としている。

4 終わりに

中小企業等の場合、会社の取締役等が自ら事務処理を行うことが多く、また、他の者による経理チェックが十分に行われないため横領等の不正行為が発覚するまでの期間が長期にわたります。また、税務調査で法人の役員又は使用人が、横領等により法人に損害を与えていたことが発覚した場合については、例えば、役員の場合には、その行為が個人的なものなのか、法人としての行為なのか峻別できないことも多いため、法人税基本通達2-1-43の「他の者から支払を受ける損害賠償金の額」の「他の者」には役員又は使用人は含まれないとして支払いを受けた日の益金算入を認めていません。
しかし、重加算税賦課の課税要件において、法人の行為と同一視することが相当な場合、それらの行為は法人が行った行為としていることから、役員及び従業員に責任を求めることはできないことになります。したがって、その行為が個人的なものと判断される場合は「他の者」に役員又は使用人も含むものとして適用することが趣旨に見合うものと考えます。

*引用判決
・原審 (東京地裁H20.2.15判決)
・控訴審(東京高裁H21.2.18判決)
・参考(法人税基本通達逐条解説)

元国税調査官・税理士 大柳 和二