個人オーナーと「不動産管理会社」
2015年11月16日
税理士 大柳 和二アベノミクス第3の矢である税制改革により平成27年度から法人税率が23.9%に引き下げされます。尚、中小企業者等の軽減税率の特例(所得の金額のうち年800万円以下の部分に対する税率:19%→15%)の適用期限も2年延長されますが、平成27年分所得税の税率は最高税率が45%(課税所得金額4000万円超)に引き上げられ、住民税10%と合わせると55%となります。
昭和58年当時の所得税の最高税率は75%で、住民税と合わせると93%という高税率で、高額所得者の所得税負担は法人税負担に比し相当に重いものでした。そこで、収益不動産等を有する個人オーナーは「不動産管理会社」を設立し、同社との不動産管理委託契約に基づき高額な管理料を支払い、管理料全額を必要経費に算入し、不動産所得を零円としましたが、課税庁は適正額を超える部分は必要経費と認めませんでした。この管理料の過大額について、東京地裁は、「本件管理料は、標準的な管理料の金額に比し、著しく過大であって、純経済人の行動としては極めて不合理であり、同族会社であるからこそ、係る行為計算を行い得たものと言わざるを得ない」として課税庁の処分を適法であると判決しました。(平成元年4月17日)
ところで、収益不動産等を有する個人オーナー(富裕層)の課題は、次のことが考えられます。
(1) 不動産所得が個人オーナーに集中して高所得となるため、所得税の累進税率により、高率の税率が適用される。
(2) 不動産所得が個人オーナーの財産として毎年蓄積するため、相続発生時の相続財産が大きくなり、相続税についても高率の相続税率が適用される。
これらの課題は、端的に言えば、個人オーナーに不動産所得が集中することに原因があります。したがって、個人オーナーの不動産所得を他に移転できるのであれば、税負担を軽減できると考えられます。
そこで、上記課題の所得税や相続税の対策のため「不動産管理会社」を設立し、個人の不動産所得を法人所得に転換することで所得税の累進税率を回避するとともに、さらに、同社を通じて本人や親族等に給与所得として所得を分散することによる節税を考えることが必要です。
この場合の「不動産管理会社」への移転方法としては、①管理委託、②一括賃貸、③不動産売却の方法が考えられますが、上記判例を参考に管理委託及び不動産売却による移転方法の留意点について検討したいと思います。
不動産管理委託
不動産の所有者は個人オーナーのままで、「不動産管理会社」は個人オーナー所有不動産の管理を行います。この場合、個人オーナーは管理料を「不動産管理会社」に支払うことで法人所得に移転し、所得税負担の軽減を図ります。
上記判例のとおり、このスキームを採用することに何ら違法性の問題は生じませんが、「不動産管理会社」に支払う管理料の設定が問題となります。管理料の設定に当たっては、賃貸契約の締結・更新、入居者の募集、賃貸料の集金等のような大多数の不動産管理会社が行っているような基本的な業務以外の、たとえば、建物の清掃、美観保持、警備、エレベーター等の附属設備の運転保守・点検業務のような、同業他社と異なる特殊性を盛り込むなど対策を考える必要があります。
不動産売却
最も所得移転の効果が高いのが、「不動産管理会社」に不動産を売却することです。
この場合は、「不動産管理会社」が直接不動産を所有することから、適正管理料について課税庁と争いが生じることがありません。
ただし、「不動産管理会社」への売却(時価)に際して譲渡所得の課税が発生します。その際に税務上で問題となるのが土地の譲渡価額です。
特に、先代から相続などで土地を受け継いでいる場合、土地の取得価額は売却価格の5%となり、多額の売却益が発生し多額の譲渡所得課税が生じることもあり得ますので建物のみを売却し、土地は賃貸借とした方が有利になることがあります。
この場合には、権利金の認定課税を避けるため所有者と借地人の連名で税務署長に「土地の無償返還に関する届出書」を提出します。
元国税調査官・税理士 大柳 和二