オーナー会社におけるグループ法人税制の具体的活用
2015年10月21日
税理士 大柳 和二グループ経営においては、持株会社設立を通じた経営統合や、関連会社を100%子会社化してグループ経営の強化を図るなどグループ統合のメリットを最大限に追求する傾向が顕著となっています。中小企業の例をみても、新規事業の展開、事業承継の円滑化、事業部門の分社化等の目的から、100%子会社の設立・取得が行われています。これらの実態に鑑みて、平成22年度にグループ法人税制が導入され、100%グループ内の法人間の取引については課税上も一体的運営をしているものとして取り扱うことになりました。
そこで、オーナー会社のグループ経営のいかなる局面でこの制度がどのように適用されるか、また、グループ法人税制の具体的活用について考えて見ます。
100%グループ内の法人間の資産譲渡
100%グループ内法人間の一定の資産(譲渡損益調整資産)の譲渡については譲渡損益を繰り延べることとされ、当該資産をグループ外へ移転等(譲渡、償却、評価換え、除却、グループ離脱等)するときに、譲渡側の法人において譲渡損益を認識することになります。そのため、グループ法人内での損だしが封じられましたが、一方、グループ法人間での資産の集約・移転を課税問題が生じることなく行うことができます。
例えば、子会社が土地(簿価6000万円)を親会社に9000万円で譲渡した場合、譲渡利益額3000万円は繰り延べられるため、子会社での税負担が生じることなく、親会社へ容易に土地を移転させることができます。また、親会社の株式評価をする際、親会社が株式保有特定会社に該当する場合には、親会社に一定の不動産等の資産を保有させることにより、株式保有特定会社に該当させない手段として利用することも可能です。
100%グループ内の法人間の寄附
100%グループ内の法人間に対して支出した寄附金の額は損金の額に算入できないこととされ、一方の法人が受けた受贈益については益金の額に算入しないことになります。
しかし、個人甲が発行済株式の100%を保有する法人A社から乙(甲の子)が発行済株式の100%を保有する法人B社への寄付について、A社において寄附金損金不算入、B社において受贈益益金不算入とすると、甲から乙への経済的利益の移転が無税で行われることになります。あるいは個人甲が「A社」、「B社」の100%株主である場合でも経済的利益の移転に伴う株式評価額の調整が可能となり、相続税及び贈与税の回避に利用されるおそれが強いため、この制度の適用は法人による完全支配関係に限られています。また、最近の法人税調査においても、グループ法人間における寄附金課税の問題指摘は減少している傾向にあります。
100%グループ内の法人間の現物配当
100%グループ法人間の適格現物分配については、現物分配法人が交付する資産の当該適格現物分配の直前の帳簿価額による譲渡をしたものとし、被現物分配法人は当該資産の移転を受けたことにより生ずる収益の額は益金不算入とされ、課税の問題は生じないことになります。また、被現物分配法人に交付する資産は金銭以外の資産であれば特に制限がありません。
(1)孫会社の子会社化
子会社が保有する孫会社株式を親会社に現物分配することにより、親⇒子⇒孫という資本関係を、子←親→子(子同士は兄弟の関係)という資本関係に再編することができます。
(2)不動産の移転
子会社が保有する不動産(収益物件)を親会社に現物分配することにより、親会社への収益の移転が可能となるとともに親会社の資産構成を変化させることを容易に行うことができます。
(3)債権・債務の整理
子会社が親会社に対する貸付金を現物分配することにより、親会社は資金移動を行うことなく、子会社からの借入金を解消することができます。
なお、会社法上、金銭分配と同様に分配可能額(配当財源)の範囲内で行う必要がありますが、資本金の減資によるその他資本剰余金も配当財源にすることができます。
元国税調査官・税理士 大柳 和二