推計課税考
2015年10月11日
税理士 松井 孝榮『推計課税』という言葉をご存知でしょうか。
これは、税務署長が更正・決定する場合に,直接的な資料によらず各種の間接的な資料(納税者の財産,収入・支出の状況など)を用いて所得を推計し居住者や法人に課税する手法を指します。
法人税法131条(推計による更正又は決定)
『 税務署長は、内国法人に係る法人税につき更正又は決定をする場合には、内国法人の提出した青色申告書に係る法人税の課税標準又は欠損金額の更正をする場合を除き、その内国法人の財産若しくは債務の増減の状況、収入若しくは支出の状況又は生産量、販売量その他の取扱量、従業員数その他事業の規模によりその内国法人に係る法人税の課税標準を推計して、これをすることができる。』
現在、推計課税が法的に認められているのは所得税と法人税についてのみです。これらの条文から明確であるとおり、青色申告であれば推計をすることはできません。
しかしながら青色申告であっても税務調査において売上除外の一部あるいは経費の架空計上の一部を把握した場合に脱漏所得の全貌を解明するため、所得金額を推計する場合があります。
また申告納税制度のもとでは納税者の申告によって税額が確定するのが原則ですが、納税者が帳簿書類を備えていない場合や、帳簿書類を備えていても内容が不正確で信頼性に乏しい場合、あるいは納税者が税務調査に非協力的な場合には青色申告を取り消してでも推計課税せざるを得ないケースも出てきます。
所得税及び法人税の理想は、直接資料を用いて所得の実額を把握することです。しかし、そうなると直接資料が入手できなければ課税できないということになり、結果として課税を放棄してしまうことに繋がります。それでは税の公平負担の観点から適当ではありません。
推計課税の例
地元の人なら誰もが知っている有名なラーメン屋さん。店内は常に満席でかなり商売繁盛しているようなのに、申告所得は異常なくらいに少ない。念の為無予告で税務調査に入ってみると、帳簿は記載もれが多く、売上伝票は全て破棄されていた・・・。
そんな時に税務署側では、例えば売上金額と相関関係にある麺の仕入れ金額をもとにこの店の売上金額を推計し、申告内容との差額に課税することがあります。あるいは、クリーニング事業者に対しては、電気・ガスの使用量から売上高を推計し課税したりします。
また売上の除外額、架空経費の計上額を把握したが除外資金の使途が不明の場合にどのように資産化されているかを検討する必要がでてきます。財産法により預金可能額等を計算し、不足分を役員賞与と認定したりします。これも広義の推計課税と言えるでしょう。
推計課税の方法
㋑同業者の中から類似同業者を選定し、同業者の平均水道光熱費率及び平均所得率を適用して、総収入金額及び事業所得の金額を算定する。
㋺資産負債増減法を用いて純資産の増加額、加算調整項目及び減算調整項目により所得金額を算出する。
㋩事業内容・規模等が類似すると認められる青色申告者の平均的な売上原価率(総収入金額に対する売上原価の割合)に基づいて所得金額及び消費税の課税標準額を推計する。
㋥各年分の業務に係る事業所得の金額の算定に当たって、進行年分の
外注工賃を考慮した所得率(総収入金額に占める一般経費及び外注工賃等差引後の所得金額の割合)を用いて計算する。
いずれも適正な推計課税の方法として採用されています。
ただし税法では、実額計算が原則であり、推計計算は実額計算ができない場合にやむを得ず許される補完的な計算方法です。実額計算が可能である場合には、推計計算は許されません。
例えば、仕入と経費については全く帳簿がないけれども売上については帳簿(実額を立証する資料)がある場合には、仕入と経費だけを推計値で計算してもらうことができます。要するに、推計課税といえでも可能な限り実額に近似させなければならないということになります。
元国税調査官・税理士 松井 孝榮