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税よもやま話 第4回 使途秘匿金

2013年03月16日

「この日本料理店の領収書に張られた印紙の消印は誰が押したものですか」
「知りません」
「それではこの高級クラブの領収書に張られた印紙の消印は誰が押したものですか」
「…………」
「両方ともあなたが会社経費として使った領収書ですが、消印に使われた印章は全く同一のものですね」
「…………」
「お店で確認したところ、この領収書は店で使用しているものではないとのことです。印紙の消印に使われている印章の名前にも記憶がないそうですが」
「…………」
「正直にお話していただけませんかね」
「……すみません。領収書は風俗店でもらったものです。使用した印鑑などは国税局が調査に来ていると聞いて処分しました」

経費の架空計上が明らかになった瞬間でした。手口が判明すると、同じ部署の仲間数人も印影から足が付き、不正計算の全貌が解明されました。架空領収書を使って経理部から資金を引出し、取引先の担当者に現金を渡していたとのことですが、渡した相手の氏名、住所は明らかにすることはできないと言います。

その結果、使途秘匿金課税が適用されることとなりました。使途秘匿金損金不算入による本税30%、使途秘匿金課税40%、重加算税35%、地方税、消費税を合わせると、支出額の100%を軽く超える追徴課税となってしまいました。

使途秘匿金の課税の特例

平成6年度の税制改正により、使途秘匿金の支出額に対し法人税を追加課税するという「使途秘匿金の支出がある場合の課税の特例(措法62)」制度が創設されました。その趣旨は、企業が相手先を秘匿するような支出は、違法ないし不当な支出につながりやすく、ひいてはそれが公正な取引を阻害することにもなるところから、そのような支出を極力抑制するために、政策として追加の税負担を求めることとしたものです。

企業の不明朗な支出が抑制されれば、それだけ相手先に対する課税が適正に行われることになります。そういった意味では相手先の脱税を抑制する効果を期待できるわけですが、この制度は相手先の脱税の抑制を主たる目的として行うものではなく、また真実の所得者に対する代替として課税するものでもないとされています。使途秘匿金に対する追加課税は、法人税の納税義務者をその対象としており、赤字法人であっても、使途秘匿金の支出があれば、本制度が適用されることになります。

追加課税の対象となる使途秘匿金の支出とは、法人が行った①金銭の支出または②贈与、供与その他これらに類する目的のためにする金銭以外の資産の引渡しのうち、相当の理由がなく、相手方の氏名または名称、及び住所もしくは所在地ならびにその事由をその法人の帳簿書類に記載していないものを言います(措法62②)。

使途秘匿金の認定のポイント

1 金銭の支出であること 贈与、供与その他これらに類する目的のための金銭以外の資産の引渡しを含み、金銭の支出であるため、損益取引に限らず、仮払金・前払金として支出した場合も含まれます。
2 支出の相手先の氏名等の帳簿書類への記載がないこと 反面調査しないことを条件に相手先の氏名等を記載した帳簿書類を提示しても、帳簿記載されていることにはなりません。
3 記載していないことに相当の理由がないこと 相当の理由の例としては、不特定多数の者からの小口の仕入れ等で、相手方の氏名等を確認しないことが取引慣行となっているもの、あるいは小口の金品の贈与があげられますが、相手先に迷惑がかかる、取引が継続できなくなるなどの理由は相当の理由に該当しないとされています。
4 対価性がないこと 例えば、相手方を秘匿した違法な仕入れ等であっても、対価性が明らかであれば使途秘匿金には該当しないことになります。

冒頭に書いたような架空経費の計上による使途秘匿金の支出は論外ですが、安易な経理処理をした結果、税務調査で発覚し、痛い目に合うようなことは避けたいものです。また、法律の趣旨を理解し、適正な処理に努めることが肝要となります。

税理士 松井 孝榮