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わが社の経営基本方針

2018年06月12日

 当社の新しい会計年度が始まる。
 4月3日、私は昨年暮れからずっと頭の中で練ってきた当社の経営計画を社内で報告します。
 毎年毎年、経営計画を策定し発表するたびに、私は経営者として大きな感慨を覚えます。
 これまで自分は理想とする経営を実践してきたのだろうか、そしていま現在も前に向かってひたすらに夢を追いかけているだろうか。経営者にふさわしい仕事ができているだろうか。そんな永遠の自問自答をくり返すのです。
 経営計画は、経営者の決意です。社員を引っ張っていく価値ある経営者であるのかどうかは、経営計画にかかっています。
 それくらい真剣に経営計画に向き合わなければ経営者とはいえないし、また経営者の面白さもわからないと思います。
 新年度を迎え経営計画の策定を終えた今回は、当社の過去・現在に思いを馳せ、さらに今後の当社を私がどのようにデザインしているのか、その概要をお話ししたいと思います。
 今回は、その前半です。

あと3年で、経営者人生45年

 昭和48年、私は自宅の6畳一間に「野本会計事務所」を開業しました。そこで地域ナンバー1の会計事務所に成長したのち、昭和63年に「東京で何かしたい」と漠然と考えて上京、翌平成元年には会計事務所の経営マネジメントを行う「株式会社エヌエムシイ」を設立しました。
 この会社で私たちは会計事務所とクライアント企業をオンラインで結ぶソフトウェアを開発しました。まだインターネットという名前すら知られていなかった時代に、電話回線で会計事務所とクライアント企業を結びデータをやりとりするという、画期的なソフトでした。
 これが好評で大成功を納め、株式会社エヌエムシイは株式上場の準備を進めていたのです。
 ところが新しい「ウィンドウズ」に適応するために20億のお金をつぎ込んですべてのプログラムをつくり変えたところ、バグだらけで苦情が殺到。結局、多額の借金を抱え、株式上場も頓挫してしまいました。
 平成14年、借金まみれになった会社を救うために、原点に立ち返って「エヌエムシイ税理士法人」を設立しました。ここで新しい会計事務所のビジネスモデルに挑戦、それが成功して借金を一気に返済しました。
 平成23年には、この税理士法人内に、国税局OBスタッフで構成する「税務総合戦略室」をつくりました。
 さまざまな税務の問題で困っている中小企業が、会計事務所を変えずにセカンドオピニオンを求められる「総合病院」です。
 毎月『日本経済新聞』に全段広告を掲載していることもあり、問い合わせが全国から殺到しています。
 振り返ってみると私は、偶然にも約15年ごとに新しい組織をつくり、業務を革新して、会社の新しい時代を築いてきました。
 そして現在は平成27年。あと3年で、三度目の15年が終わります。そこからあとは、また当社の新しい時代が始まるのです。
 私は、このあと3年で、三度目の15年の一区切りをつけ、更に新しい15年の準備に入りました。

43年間、唱え続けている社訓

 これまで私は時代に即して企業経営の舵をとってきました。いろいろなことがありましたが、一貫して変わらないのは当社の経営哲学です。
 当社の朝礼では社員全員が社訓「熱意、行動、感謝」を唱えます。それは、野本会計事務所を開業して初めて朝礼を行ったときから現在まで変わることなく行われています。
 次のような意味が込められています。
 まず、熱意とは何か。
 よく「熱意を持って、仕事をしました」という言葉を聞きますが、いくら頑張ってもそれが周りに伝わらなければ、それは熱意ではありません。ポケットにカイロを持っていても温かいのは自分だけ。
 それではダメで、ストーブのように周囲を温めてあげること、それが熱意なのです。「願わくば太陽になりなさい」と、いつも私は社員に言います。
 行動とは何か。
 「一生懸命やりました。でも答えが出ません」というのは、行動とは言えません。お客様のもとに毎日のように通い続けても、成果がなければ何もしていないのと同じです。答えが出て、初めて行動なのです。
 感謝とは何か。
 しかし、いかに素晴らしい答えが出ても、自分一人で達成したと思ってはいけません。仲間や家族の応援があって、いろいろな状況に助けられて、その結果があるのです。
 そのように考えることができれば、自然に感謝の心が育ちます。
 一人でやっていると思っている人は、いかに優秀でも、ダメになっていきます。

43年間、堅持している経営基本方針

 社訓のもとになっているのは、経営理念です。経営理念を簡単な言葉にして、社員がいつも口にして思い出せるようにしたものが社訓です。
 経営計画をつくるときに基準となるのは、経営理念です。
 経営理念は、会社の憲法のようなもので、そのモノサシによって、中期・長期の具体的な経営計画を策定していきます。そこでブレてはいけないのです。
 当社では、経営理念に基づいて、いかに具体的な経営計画を立てていけばよいのかという、その要旨を5つの柱にまとめています。これが当社の「経営基本方針」です。

●経営基本方針(一)

 利益を追求することが企業経営の基本である。そのために、原価意識を持ち、高付加価値追求を第一とする

 企業が利益を出すことは当然ですが、並の利益ではダメです。正しい方法で確実に、莫大な利益を上げていくのです。
 そのためには、お客様に対して高い価値を提供しなければいけません。
 高付加価値を追求しようと思ったら、ほかの同業他社と似たようなレベルでいてはいけません。
 また、これまでお客様に認められている価値に甘んじていたのでは達成できません。常にもっとレベルアップしたいと考え、過去の成功を踏み台にして、提供するサービスや商品を改善し続けることが求められます。

●経営基本方針(二)

 時代の変化を的確にとらえ、常に変化対応力を持ち続ける。そのために、先見力と柔軟な頭脳、そして迅速な行動が求められる

 振り返ってみると、時代の変化というものは凄まじいものだということが実感できます。
 43年前に私が会計事務所を開業したころ、まだ文書はすべて手書きでした。東芝がワープロ第一号を発表したのが、6年後の1978年です。80年代中ごろになってようやく世の中にワープロが広まり、それ以降、文書は活字で印刷されるのが当たり前になっていきました。
 それからさらに30年たったいま、ワープロ専用機は完全に廃れました。ワープロ機能を備えたパソコンを持つのが当たり前になったからです。
 あるいは、私が子どものころ、手塚治虫が『鉄腕アトム』というSF漫画を描きました。夢の世界にわくわくしたものですが、いまや現実に人間らしいロボットが製品化され、販売されているのです。
 今は変わらないと思っていても、時代というのは間違いなく確実に変化していくものです。しかも変化が始まれば、そのスピードはきわめて急激です。そういうことを私たちは、たくさん経験してきているはずです。
 であるならば、経営者は時代の変化とともに変わる人々の価値観を敏感に嗅ぎ取り、先手を打って対応していかなければ企業は存続できません。経営者はいつも頭をやわらかくして、5年先はこうなっている、10年先はこうなっていると、考え続けられるか。そして、決断して行動できるのかが問われているのです。

●経営基本方針(三)

 「生きがいとは何か」を問い続け、人間としての豊かさを求め続ける。そのためには、素直な心、感謝する心、そして反省する心を必要とする

 事業が成功して大きな利益を上げた。経営者はお金持ちになり、社員の給料も上がった。紛れもない成功者となりました。
 しかし、それですべてがOKなのでしょうか。
 人間としての本当の豊かさは、お金だけで得られるのでしょうか。本当の意味での生きる喜びとは、生きがいとは、何なのでしょうか。
 人間として、どんな生き方をしていけばいいのだろう。利益だけではなくそんなことも自問し、考えながら、経営を行っていかなければなりません。
 世の中のためになる事業を行えば、それは利益につながります。
 しかしそれは、その会社の存在意義を示すという、さらに素晴らしい価値にもつながっていきます。
 人のためになることができた喜びには、お金では得られない深いものがあるはずです。

●経営基本方針(四)

 正しい方向に人々を導くことは最高の仕事である。そのために、常に自己錬成に励み高い理想を追い続ける

 あなたにとって仕事における生きがいとは何でしょうか。仕事のどこに大きな価値を見いだして、経営を行っているのでしょうか。
 私は、仕事を通じてより多くの人を正しい方向に導くことができたら、こんなに素晴らしいことはないと考えて経営をやってきました。これは税理士として、あるいは、会計事務所マネジメントのサービスを提供する会社の経営者として、最高の道と言えるでしょう。
 いかに儲かる仕事でも、それが人を悪い方向に導く結果になるのなら、やるべきではありません。新しい事業をしようと計画を立てるときも、この基準で考えます。
 時代を先取りして考えた新しい事業が人々を確実に正しい方向に導くのであれば、それはチャレンジする価値があると判断します。

●経営基本方針(五)

 経営発展の秘訣は人材力の差である。そのために、職場をプラス思考の人間育成道場とする

 いろいろな企業が切磋琢磨して競争しています。
 企業の優劣を決めるのは、決して規模の大小ではありません。売上だけで決まるものでもありません。
 では、企業の差は、どこにあるのでしょうか。それは最終的には、そこで働く人材の差ではないかと思います。人材の差こそが企業の格差を生んでいるのです。
 人を採用し、つくりあげ、同じ方向に引っ張っていくのは、社長以外に存在しません。
 その会社のなかで最も優れた人材が、社長なのです。社内には社長以上に大きな器の人はいないのです。言い換えれば、社員はいかに優秀でも、社長以上の器には成長できないということです。
 つまり、社長は自分の器を常に際限なく大きくしていかなければならない存在なのだ、ということです。社長が自分を磨くことを怠れば、社員の成長はなくなり、会社の発展も止まってしまうのです。
 「人材が育たない」「人材がいない」と嘆く社長は、自分がダメなのです。会社の差は人材力の差、そして人材力の差はすなわち、社長の差です。
 結局、すべては社長次第ということです。社長は、のほほんとしていればいいわけではありません。
 経営者というのは、誰よりも厳しいところに置かれているのです。
 もしも、自分を高める努力ができなくなったら、経営者は辞めなければいけないと、私は思っています。

 以上の五つが、当社の経営基本方針の柱です。私はこの5本柱を旨として、毎年経営計画を練っているわけです。
 次回は、この新しい年度を前に、私がどのような経営計画を考え、社員に発表したのか。それを差し支えない範囲で、みなさんにもお教えしたいと思っています。

創立者 野本 明伯