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先見力と決断力

2018年04月23日

先見力も決断力も、養っていくもの

 私どもエヌエムシイ税理士法人では、今年の6月から新しい代表にバトンタッチしました。早くも4か月が経過しましたが、新代表は毎日毎日が決断の連続で四苦八苦しているようです。
 黙ってみていると、新代表は一つ一つの事象の結論を先延ばしにしているようにみえます。そして、自分で二進も三進もいかない状況にしてしまっています。
 私自身は、これまでの経営者人生を即断即決でやってきましたので、「なぜ即決しないのか、何を怖がっているのか」と、いつも思って見ているわけです。
 飛行機の副操縦士は決して操縦士にはなれないと言われます。アシスタントのときには必要なかった迅速で的確な判断・決断が、操縦士には不可欠だからです。
 経営者におきかえたとき、これと同じではないでしょうか。番頭さんのときは抜群に仕事ができたが、トップに据えてみたらあたふたするばかりで決断ができない。部下から信用されず、どうしたらいいかわからなくなってしまう。
 これは中小企業が抱える事業承継の問題に通じます。いくら優秀な部下でも、社長以上の器は持っていません。新米経営者が、すぐに経営者の仕事ができないのは当然です。でも、創業者は事業承継をしたとき、私のようにイライラしてしまうわけです。
 しかし、仕方ないとガマンして、先見力と決断力のある一人前の経営者になるのを待つことが大事なのだと思います。
 先見力・決断力がある人とない人は何が違うのでしょう。一つは、感性です。その資質は生まれつき備わっている面もあるでしょうが、それだけではありません。
 経営者の仕事など、誰でも最初は慣れないものです。それでも経営のなんたるかを理解し、毎日毎日頑張って、意識して即断即決の訓練をしていけば、やがて経営者の感性が身についていくものです。もともと勘が悪い人でも、意識して即断即決の毎日を過ごしていけば必ず、先見性が宿ってくるものなのです。

自分以外を見るのが経営者の仕事

 技術者や職人は、コツコツ真面目に努力を積み重ね、自分の技術を上げていかなければなりません。仕事は思いつきでできるものではなく、慎重に進めていく態度が求められます。技術者や職人は、そうやって自分の成功をつかんでいくものでしょう。
 しかし、技術の高さと組織経営は、別ものです。技術の高さは会社の強みになりますが、それはイコール組織経営の力につながるわけではありません。むしろ、技術者や職人とはまったく正反対の発想で経営に当たらないと会社は伸びていかないのです。
 経営者は、他人を使って仕事をする存在です。従業員も取引先もお客様も、みんな自分と同じではありません。つまり経営者の仕事とは、自分以外のことを決断していくことなのです。
 真面目にコツコツやっていても他人のことはわからないし、まして決めることなどできません。自分のことだけを考えていたら、先見力も決断力も身につきません。

一歩、踏み出せない経営者が多い

 税理士という職業がら、私はたくさんの中小企業経営者にお会いしてきました。その数は40年間で数千名、もしかしたら1万名を超えているかもしれません。ですから、経営者のみなさんのことはとてもよくわかります。
 いまでは初対面でお会いしても、(この方はまだ若いけれどもいずれ成功するだろう)とか、逆に(この方は身なりは立派だが成功者の器ではないな……)などと、すぐにわかってしまいます。経営者の本質は、そのまま人に現れているからです。
 その判断を、私はどこから得ているのでしょうか。経営者の何を見て、私は成功する器か否かを直感的に理解しているのでしょうか。
 それは私の長年の勘のようなものですが、論理的に説明することもできると思います。
 今回は成功する経営者と成功しない経営者を、あるポイントから眺めてみたいと思います。
 私ども税理士事務所は、経営者のみなさんにいろいろなご提案をします。その提案に対しての反応は大きく2つに分かれます。
 一つの反応は「それいいね!」と即決する経営者です。もう一つの反応は、興味を示しながらも「考えておきます」という慎重な答えを出しておく経営者がいます。
 間違いなく興味はあるけど「考えておきます」と答えた経営者は、もう一度じっくり考えて結論を出そうという思惑なのでしょう。しかし、もう一度家に帰ってじっくり考えてから、結局は「やっぱりやめておきます」と言ってくる経営者が少なくありません。
 一歩が踏み出せない中小企業経営者は意外に多いものなのです。

成功する経営者は即断即決する

 中小企業経営者のいちばん重要な仕事は、一体なんでしょうか。
会社経営にはさまざまな仕事があります。従業員の管理、経営方針や計画の策定、資金繰りのマネジメント等々、経営者は毎日毎日さまざまな仕事に携わっています。
 そうしたなかで経営者が最も求められていることは、会社全体を把握しながら、その時時で迅速で的確な判断をしていく、ということです。
 そのために、経営者は会社の過去から現在をきちんと理解しておき、さらに来るべき将来(中期的・長期的)にどのような会社になっていくのかというビジョンをはっきりと持っていることが求められます。それが経営者の頭の中で整理されていれば、毎日刻々と起こってくる事象に対して、間髪を入れずに判断・決断することができます。これが中小企業経営者の最も重要な仕事だと私は思います。
 経営者の仕事というのは本来、すべて即断即決でやっていかなければ動いていかないことばかりです。経営者が行うべきすべての判断のうちの99%は、即断即決しなければ手遅れになってしまうものばかりです。時間を取って熟慮してから決断すべきことなど、1%あるかないかだと私は思っています。
 ところがほとんどの経営者は慎重で、「そんな軽はずみに思いつきで大事なことを決めて大丈夫ですか」と首を傾げます。それは、経営者の仕事がわかっていないのです。だから、決断を後回しにしようとしているのです。
 経営者の判断・決断の遅れは社外的にも社内的にも、大きな影響を及ぼします。判断が遅れれば遅れるほど悪い影響が大きくなる、つまり会社にとって不利な状況になっていくわけです。そこに気づかないといけません。
 失敗は取り返せますが、行動しなかったことはあとで取り返すことができないのです。
 判断して決断すべき状況に直面したら、絶対に後回しにしない。その場で処理をしてしまう。それができる経営者は、私は一流の経営者だと思います。そういう経営者が成功をつかんでいくように、世の中はできているのです。

成功者は理解力が高く、反応が早い

 経営者にもいろいろな方がいます。真面目にコツコツ、率先して汗を流している経営者もたくさんいます。一方で、適当に自分の時間をつくりながら、好きなように仕事をしている経営者もいます。
 しかし、経営者は真面目にコツコツと努力を重ねていけば成功するかというと、じつはそんなものではありません。経営者は技術者や職人とは違うからです。
 成功する経営者を見ていると、とにかく相手の話の理解がものすごく早いことがわかります。そして話の内容について、瞬間的に答えを出してきます。だから話しているほうも乗ってきて会話が弾みます。響き合い、お互いに触発されてアイデアが次々に湧き出てくるような会話になっていくのです。
 しかし、ダメな経営者というのは、理解力がないのか、感性がないのか、決断力がないのか、なかなか答えが出てきません。会話はうやむやになり、しり切れトンボになっておしまいになってしまいます。新しいことは何も起こりません。
 初対面でも会話が弾み、答えを出してくる人を見ると「すごい人だなあ」と感動します。そういう人を見ていると、たいてい大きな成功を手にしている人です。成功するとそうなるのか、もともとそういう人だから成功するのか、それはわかりません。しかし、成功する人は間違いなく判断と決断が早いのです。

いくつもの失敗のあとに成功がある

 もちろん、即断即決して痛い目にあうこともあります。思いつきで飛びついて、すべて成功するわけでは決してありません。即断即決に、失敗はつきものです。
 私にも苦い経験がたくさんあります。しかし私は、失敗に懲りたことは一度もありません。失敗するのが当たり前だと、半ば思っているからです。私がいくら楽天的だといっても、世の中にはたくさんの失敗のなかに、ごくわずかな成功があるということは理解しています。
 だからこそ、失敗しても気にしないのです。5回、6回と失敗しても、懲りずに同じように即断即決していくのです。すると、7回目に成功がやってきます。その成功がいままでの失敗をすべて取り消しにし、さらにより大きな価値をもたらしてくれます。それが経営というものですし、その先に成功があるのです。
 6回で懲りて即断即決をやめてしまった人には、成功は永遠に訪れません。みずから成功を放棄してしまったことになるからです。
人のマネジメントも同じです。
 「この仕事をあの社員にやらせたが、結果は大失敗だった」
 そんなことは、中小企業経営ではいくらでもあります。もちろん、後悔します。しかし、そうした失敗をくり返していくうちに、経営者の先を見る力が結果として磨かれていくのです。
 失敗に懲りて決断の仕事を後回しにすれば、たしかに一時の安心は得られるかもしれません。しかし、それではいつまでたっても怖くて決断できない経営者のままです。

決断のもとに「運」はやってくる

 成功した経営者はみな「運が良かった」と言います。「運が良い」というのは「縁をつかんだ」ということでしょう。この「縁をつかむ」ということも、その人の感性です。
何かを感じて一歩踏み出すことができたときに「縁」が生まれます。そのときのことを振り返って、成功者は「ああ自分は運がよかったな」と言うのです。
 私はセミナーで、成功は「情報×知識×知恵×勇気」の答えであり、この4つのうちの一つでもゼロだったら答えもゼロになる、という話をよくします。情報も知識も知恵もすべて極上品を用意したとしても、最後に経営者の勇気がなければ成功は水の泡、ということです。

それは、運がなかった、ということになるのでしょう。
 チャンスの瞬間に失敗を考えて思い止まるのではなく、一歩踏み出せるかどうか。その勇気は、毎日小さな即断即決をくり返していくうちにつかんでいくものです。そんな毎日を続けていけば自然に「縁」ができ、運が良くなり、やがて大きな成功が舞い込んできます。
 これは経営者の器を大きくしていくことにもつながります。
 経営者の最大の目標は、自分の器を大きくすることだと思います。自分の器を大きくすることが経営者の仕事と言ってもいいでしょう。そのために欠かせない経験は、経営者自身が踏み出さないと得られません。経営者の迅速で的確な判断・決断を生む感性は、一歩踏み出すごとに研ぎ澄まされていくのです。
 これは一朝一夕にできることではないし、立派な本を読んだり尊敬する人の話を聞いたりして身に付くものでもありません。実際に自分が体験して、たくさん失敗して、傷を負いながら感性を養っていくのです。「失敗は財産」というのは、そういうことです。
 決して簡単なことではないでしょう。しかし、それが簡単ではないからこそ、成功者は一握りなのです。
 たった一度の経営者人生、思う存分に成功しようではありませんか!

創立者 野本 明伯