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税理士コラム

会計データを読む2016年05月01日

お客様企業の試算表や決算書の数字を5分、10分と眺めていると、自然に財務状態の良し悪しや利益の出具合が脳裏に浮かび上がってまいります。そして、それを裏付ける意味で、社長や弊社の担当スタッフから近況をヒアリングする。面白いほどに、数字というものは、会社の本当の姿や経営者の性格までを正直に物語ってくれます。
 業種や会社規模の大小に関わらず、私は「貸借対照表」の数字をより重要視しております。ご存知の通り、この会計データは、会社の資産(現金・預金・売掛金・商品在庫・固定資産・有価証券)、負債(買掛金・未払金・銀行借入金)、資本(資本金・累積の黒字又は赤字)から構成されています。
 しかも、創業当時から現在にいたるまで、途切れることなく経営に関する数字を引き継いできているため、そこには会社の歴史が凝縮されている、といっても過言ではありません。

優良企業の証し

極論すれば、貸借対照表のある一つの数字をチェックすれば、優良企業度合が分かります。それが、自己資本の金額と自己資本比率です(一般的には、貸借対照表上の資本金のすぐ下のあたりに「純資産の部」と表記されています)。

  • 自己資本の金額=資産の総額-負債の総額
  • 自己資本比率=自己資本の金額÷資産の総額

自己資本の金額がマイナスの場合を「債務超過」と呼び、銀行は融資を渋ります。一方で、自己資本比率が30%超になると、優良企業の仲間入りです。
 先日、決算前の打合せでご来社されたS社は、創業以来常に黒字決算を続けており、今期も約2000万円の利益を見込んでおります。私はS社の貸借対照表を一覧し、例によって、自己資本の金額と自己資本比率をチェックしました。結果として、黒字が蓄積され自己資本の金額は膨らみ自己資本比率も30%に迫る勢いです。
 いわゆる優良企業だなぁ、と思った瞬間…。

社長貸付金の持つ意味

貸借対照表上のある特殊な資産項目が、私の目に留まりました。「社長貸付金」です。これは、オーナー企業ならではの金銭取引を処理するもので、会社から社長個人が現金を私的に借りて返済していない金額を意味します。
 社長が自身の会社から現金を借りること自体全く問題はありませんが、返済ができずに残高が増え続けると、様々な悪影響をもたらす結果となります。一例をあげてみましょう。

  • 会社として利益を出し続けていても、社長個人に現金が流出したまま返済が滞ると、会社の資金繰りを圧迫する。
  • 社長貸付金の残高が減らない又は膨らみ続けると、金融機関の評価は下がる。
  • 税務調査において、社長貸付金に関して利息計上がされていないことが発覚すると、追徴税額が発生する。

実際のところ、S社の社長貸付金は、総資産額の約4分の1を占めるまでになっていました。つまりは、厳しく会計データを読めば、S社の本当の正味財産は貸借対照表の資産総額の約4分の3程度ということになり、自己資本はトントン、ほぼゼロとなるわけです。

会社と社長個人との取引

そこで私は、次のようなアドバイスを差し上げました。毎期利益を計上し続けているのですから、来期から社長の給料を上げて、その中から毎月一定額を会社への返済にあてましょう。そしてこれは、短期間で一気に解決できる金額ではないので、時間を十分にかけて無理なく財務状態を改善してゆきましょう、と。
 このケースは、オーナー企業の会計データを読み解くうえで、一つの示唆を与えてくれます。それは、会社間は勿論、会社と社長個人の経済取引も同時に注視することが大切である、ということです。社長貸付金以外にも、社長が私的に会社につぎ込んだ金銭「社長借入金」、「社長給与や退職金」、「社長に係る各種保険」、「社長自宅の社宅化」、「社長の車」等など、枚挙にいとまがありません。
 弊社のお客様企業の99・9%がオーナー企業である以上、会社と社長個人の間に発生する税務会計の諸問題を総合的に解決してゆくための知恵の習得とスキルアップの必要性を、より一層強くいたしました。

代表社員・税理士 佐藤 修一

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