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税理士コラム

実際に手術をしたことがあるのか2013年01月01日

「1/100 いま、海外に住む日本人は118万人を超える。100人に1人の割合だ。内向きと思われがちだが、新しい形で海外を目指す人たちが出てきている」。1月6日付の朝日新聞日曜版の特集「脱ニッポン」の見出しが、目に留まりました。

記事によれば、海外で暮らす日本人は商社やメーカーの社員とその家族が多くを占めるが、そのほかにも、子供の教育のために移住する親子、定年後の人生を送るシニア、資産リスクを回避したい富裕層と、「100万人」を構成する顔ぶれは多様化しているとのことでした。

なるほど、ここ最近は私どもの現場においても、海外絡みの税務相談が急に増えだしたことを肌で感じ、合点が行きます。つい4、5年前までは、大企業やほんの一握りのお金持ち等、別世界の問題と思っていましたが、いまでは、毎週のように相談案件が舞い込んでくるのです。

海外移住と節税がセット

その内容は、子供の教育、定年後の第二の人生、資産のリスク回避のため等、まさに冒頭でご紹介した海外移住の新聞記事とピッタリ重なり合うのです。そして、すべてに共通することが、日本の重い税負担から解放されたいという節税ニーズがセットになっているということです。

◾原発事故による子供への影響が心配なので、小学校入学を機に、母娘でシンガポールに移住したい。夫が経営する日本の会社から今後も給与・配当を受取る予定だが、税金の申告はどうすればよいのか。また、移住して数年後に財産を娘に贈与した場合、税金がかからないと聞いたが、本当なのか。
◾M&Aにより会社を売却し、十分な老後資金を確保した。3月には娘を連れ、夫婦でマレーシアに移住する。国内財産を海外に持ち出した場合、税金がかかるのか。また、永住することで、将来の相続税や贈与税を軽減できるのか。

海外取引に目を光らせている

このような海外税務に関する相談は、一般的に優良企業や富裕層が中心で、つまりは高額納税者に該当します。ここでちょっと気になるのが、海外取引や海外資産に対する国税当局の見方です。

国税庁が発表した平成23事務年度の「所得税調査の結果」によれば、次の5つを調査重点項目として紹介しています。
1.金地金等に係る譲渡所得
2.富裕層
3.高額・悪質と見込まれた無申告者
4.海外取引
5.インターネット取引

この中でも、当局が特に力を入れることが予測されるのが、(4)海外取引なのです。

海外取引に対する所得税の調査件数は、平成18年には2594件だったものが、その後、企業の国際取引や個人資産家の海外投資などが活発化したことに比例し急増。平成23年は4019件と、5年で1.5倍以上に増えています。これに伴い指摘を受けた申告漏れ所得金額は593億円で、(3)高額・悪質と見込まれた無申告者の1664億円には及ばないものの、(2)富裕層の391億円、(5)インターネット取引の250億円を大きく上回りました。

当局は、このような現状を踏まえて、海外取引の申告漏れ対策を重点課題と位置づけ、税務職員の国際課税に対する調査能力の強化を図っているようです。

自分自身の無力さを痛感

特にここ1年、様々な海外税務に関する相談をお受けするうちに、物の本に書いてあるような薄っぺらな知識だけでは、全く歯が立たない、お客様を満足させられない、ということを痛感しています。逆に、お客様の方が海外情報を数倍お持ちで、恥ずかしながら、教えられることもしばしばです。

お客様が期待しているのは一般論ではなく、実際に会社が海外に進出し取引活動を行う、個人が移住する、海外に資産を移転する、という実行を伴う上での税務アドバイスなのです。病気に例えれば、医学辞典の内容の解説ではなく、目の前の病気を治すための処置であり手術なのです。

私も一税理士ではありますが、医学辞典(海外税務)の解説はできても、正直なところ手術の経験もございませんし、できません。しかし、患者(お客様)にとって、安心・安全な手術ができる専門医をご紹介することはできます、知ったか振りをせずに……。

それが本当の意味での、顧客第一主義のサービスと信じております。本年も、スタッフ共々、よろしくお願い申し上げます。

税理士 佐藤 修一

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