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税理士コラム

最後の大仕事2013年10月01日

「僕の長編アニメーションの時代は、はっきり終わったんだ」。9月6日、アニメ映画監督の宮崎駿さんが、満面に笑みを浮かべながら引退会見を開きました。
「何度も辞めると言ってきたが、今回は本気です」と、年齢を重ね、集中力が衰えたことを引退の理由に挙げていました。そして、子供たちに伝えたかったのは「この世は生きるに値するという思い。それは今でも変わらない」と述べていました。

最近、「風立ちぬ」という新作を発表したばかりで、宮崎アニメのファンはもとより、なぜ今、引退なのか、という思いを抱かれた方も少なくないのではないでしょうか。惜しまれながら引退した宮崎監督も72歳、児童文学に影響を受けてアニメの世界に飛び込んで50年、後継者であるご長男の五郎監督に、名実共に、たすきを渡されました。

3年先までのレールを敷く

私どものお客様である中小零細企業のオーナー社長にも、いつか必ず引退の時が訪れます。
先日、昨年の決算期をもって創業41年の会社を引退され、現在、会長職に就いているM様がご来社されました。M様とは、お付き合いが始まってまだ1年足らずなのですが、同郷ということもあり、ご契約当初より意気投合し、退職の時期、退職金の適正額、会長としての給与の有無、会社の持ち株の後継者への引継ぎ割合等の税務的な諸問題について、腹を割って十分な話し合いを重ねました。結果として、社長引退に向けて一人で抱えていた悩みを払拭するお手伝いができ、M様自身が納得のゆく引退の道筋を指し示すことができたと自負しております。

引退後も、堅実な経営がモットーの新社長や素晴らしいスタッフの方々に恵まれ、今期の決算は数千万円の利益計上が確実で、キャッシュフローも潤沢な状態を維持し、また、来期以降3年先までは好業績が見込まれています。M様の本音としては、この3年間は会長職として目を光らせ、その後は、完全に身を引く考えなのかもしれません(想像ですが、M様抜きで、新社長とスタッフ様が3年で会社を軌道に乗せられるように、ある程度レールを敷いてからの引退だったと思います)。

中小零細企業の難問題

創業社長の引退は、中小零細企業様の継続的な発展において、最大級の難問題の一つであり、後継者へのバトンタッチは、社長の最後の大仕事といえます。

M様のように、老後資金として十二分な退職金を貰うことができ、素晴らしい後継者やスタッフ様に恵まれ、会社も増収増益の中で、引退を迎えることができるケースは、どちらかといえば、少数派といえます。
多くの中小零細企業様にあっては、後継者自体がいない、適任者が社内にいない、銀行借入が相当額残っているため積極的な承継話が切り出せない、何十年と心血や私財を注ぎ込んできたのに十分な退職金が貰えない等、様々な社長引退時の問題に直面している現実があります。

名パイロットの腕前

会社を創業すれば、誰しも必ず後継者にバトンタッチをする時が訪れます(後継者に恵まれない場合には、会社を閉じる、あるいは他人に売却することもあります)。
弊社の代表によく言われます。「入社すれば、誰でも必ず退職する。退職する理想のタイミングは、自分が評価されなくなったり、戦力外になった時ではなく、自分の評価が入社以来で最高の状態にある時だ。そして、皆に惜しまれながら退職する。そうすることで、次のステージに行った時に、さらに活躍でき、よりいっそう輝くことができるんだ」と。

今回の宮崎監督は、まさにファンに惜しまれながらの引退、M様におかれましても、会社業績や後継者・スタッフ様の育成等がうまく行った状態での退職といえます。いわば、最高のタイミングで現役を退くという、羨ましいかぎりの花道です。
会社を起こすのは誰でも簡単にできますが、会社を退き後継者にスムーズにバトンタッチをする、あるいは、会社をうまく閉じることは、とても難しいことです。飛行機に例えれば、簡単な離陸よりも、スムーズな着陸で乗客を安心させることができる名パイロットの腕前が必要になります。

「会社が最高の状態の時に引退する、自身が最高の時に会社を退職する」、チョットかっこ良すぎでしょうか……。社長引退、社員の退職、いずれにしても、引き際というのは、難しい選択であることには、間違いありませんね。

税理士 佐藤 修一

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